教えて事業所捜査隊‼ 第6回「日本の味覚を次代に繫ぐ挑戦者」

第6回「日本の味覚を次代に繫ぐ挑戦者」

今月の捜査対象:森山醸造食品(有)(森山 武俊氏)

 

こんにちは、事業所捜査隊員の荒巻です。

当企画は柳川YEG会員の事業所を立入捜査の上、その実態を明らかにする事を目的としております。
なぜなら、私たちは同じ柳川YEGに所属しておりながら、お互いの生業をよく知らないのではないか?
その疑念を払拭することこそ我々捜査隊の責務と信じて疑わないのであります。
前年度よりその企画意思を引き継いで本年度も行っております。

 

当企画第6回目の捜査対象者は本年度直前会長である『森山醸造食品(有)』の森山武俊さんです。
早速森山醸造食品(有)の事業所を紹介したいと思います。

事務所は、柳川へ観光に来たら必ず散策される沖端地区、詩人北原白秋の生家や柳川藩主立花邸 御花がある地区です。
白秋生家の目の前にある民芸品販売の店舗兼事務所と、そこから東へ100メートルほど離れた水の神様水天宮の近くにある醤油仕込み体験ができる工房と工場があります。
今回は工房の方にお邪魔させていただきました。


森山醸造食品(有)は1900年(明治33年)創業。
武俊さんの曽祖父が開業され、今年で117年目となる老舗の会社です。(平成29年現在)

代表である武俊さんと工場長である武俊さんの弟さん、そしてパートさん4名の計6名で経営されています。
主力商品は何と言っても濃口醤油「芙蓉」。森山醤油と言ったらこの商品!地元で昔から愛されている味です。

醤油には、濃口、薄口、たまり醤油、白醤油、再仕込み醤油の五種類があり、これらの違いは各地域の文化によって変わるものだと言われます。
これらの種類が分かれているのは原材料の配合割合や塩分濃度によって違うそうです。


さらに濃口醤油は、成分表示の中に「アミノ酸液」という成分が入っているものと入っていないものがあるそうです。
アミノ酸液を入っていないものが「本醸造」と表記され、入っているものを「混合」と表記されているそうです。
その違いは、簡単に言うと製造過程でこのアミノ酸液を使っているか使っていないかの違いとなり、概ね九州や関西くらいまでの西日本の地域では、アミノ酸液が入った「混合」が多く市場に出回って広く食べられているそうです。
「本醸造」と「混合」の値段はあまり変わらないそうですが、味は全く違うそうですよ。

森山醸造食品の濃口醤油は「混合」になります。
1950年にできた醤油を今日まで製造販売してきているため、この伝統ある味を「本醸造」の味に変えることはできず、この味を買い求めていただける消費者がいるため容易には変えられない、これが文化であるとおっしゃられます。
森山醸造食品では、現在この醤油が一番の売り上げになっているそうですが、この業界の取り巻く現状に、将来はたいへん厳しいものがあると感じられていました。

武俊さんが森山醸造食品(有)に戻ってこられたのは18年前。
当時は醤油のみの製造販売をしていたそうで、会社の経営は厳しい状況だったそうです。
なぜ会社がこのような状況なのか?マクロ的視点で醤油業界全体の状況を把握し、そこからミクロ的視点に落とし込んで、自社はどうしたらよいのか?を分析されたそうです。
現代の食文化の多様化、変化に伴って醤油の消費量は年々右肩下がりの減少傾向を目の当たりにされたそうです。
醤油は時間に余裕があって「料理」ができる人でないと、醤油自体にはこだわりがでないのではないか?
料理や味にこだわる人は、自分自身や家族がこの味でなければならないという意識になるが、昨今の加工調味料の登場によって、料理が時間を要せず簡単に美味しく作れるようになったことが、この右肩下がりの要因になっているのではないかと武俊さんは考えました。


このまま何も手を打たないと会社は淘汰されていく、厳しい会社経営を何とか打破していくため、従来の考え方に囚われず、新しいことにチャレンジしていくことを決意されます。
醤油の製造販売のみならず、加工調味料の製造販売にも着手していくという大きな決断をされるのです。
しかし、それからが苦難な道の始まりでした。

加工品、調味料の商品開発には長い時間を要して作成されるそうです。
ですが、その中でも売れる商品もあれば残念ながら売れない商品もあるそうです。売れない商品は、思い切って製造販売を止められるそうです。
時間を費やして開発した商品を止めるのは、開発者からすると名残惜しいものだと思われますが、そこはその商品を見極めた上で気持ちを割り切って止められるそうです。
武俊さんは「止める勇気」が必要だと言われます。もちろん、その止めた商品に代わる新たな商品を開発されていかれるそうで、試行錯誤の連続だそうです。

味に自信がある商品で売れると思っていても、その商品名やデザインによっても購買が左右されている現状があると言われます。
デザイン力も商品を売るためには重要なものであり、購買意欲につながるキャッチコピーやラベルのデザインがないと売れないそうです。
それも売上向上のためには補わなくてはならないものだと話されます。

このような苦労の絶えない状況は今もなお続いているようですが、必ず目玉商品を誕生されるという強い信念のもと、会社を挙げて一生懸命取り組まれています。

ちなみに現在の売れ行きベスト3は、
1位:サラダがおかずになっちゃうドレッシング
2位:お・と・なのジャポネ 和風醤油ソース
3位:サラダがおかずになっちゃうドレッシング トマト味
になっているそうです。
(わたくし個人的には、2位のお・と・なのジャポネ 和風醤油ソースがおススメ! こちらもサラダによく合うおとなの味です)

また、年々目まぐるしく発達を遂げているITを活用して、通信販売にも取り組まれています。
自社のホームぺージを立ち上げ、ブログやフェイスブックと絡めて、商品を世間に幅広く宣伝し、インターネットからでも注文できるようにして、販売促進につなげられています。
ホームページはこちらから

さらに、醤油を取り巻く現状を知ってもらいたい、そして今一度「料理」というものを見つめ直してもらいたいとの思いで、来訪者に対しては醤油の仕込み体験や生醤油搾り体験を実施されています。
(現在は、残念ながら人員不足により休止されています)

このように、加工調味料の製造販売、ITを活用した販売や醤油仕込み体験の実施に挑戦し続け、今日の会社経営の軸になってきているそうです。

今般は、中小企業の飲食店や業務店向けのオーダーメイド調味料の製作にも力を注がれており、この取り組みにも手ごたえが出てきているとのことでした。

この取材の中で、武俊さんよりお聞きしたお話の中で最も印象深かったものとして、なぜ「料理」にこだわっているのか?ということでした。
舌の五覚には酸味、苦味、甘味、塩味、うま味があります。
この最後の『うま味』に、武俊さんは着目されていました。

現在、都会の子供たちには味覚障害が増えているそうです。
これは、子供のころにカツオやいりこや昆布などの「天然」のうま味成分を食して、舌に『うま味』をすり込んで覚えさせていないと、大人になったらその『うま味』が『苦味』として捉えてしまうそうです。
その原因は、既に加工された調味料の粉末や添加物で調合されたものを利用して料理された食べ物しか食べておらず、天然素材より取った『本物のうま味』というものに接する機会なく成長したことだと考えられるそうです。
そのような危険に子供たちをさらさないようにしてもらいたく、時間を要しても家庭でだしから取って料理してもらいたい、各々の家庭に代々引き継がれてきた味を子供たちに食してもらいたい、そして将来へ引き継いでもらいたいと家庭の味をもっと大切にしてもらいたいと感じてもらえるように、醤油仕込み体験をとおして伝えていると話されていたことがすごく印象的でした。

たしかに、現在はスーパーマーケットやコンビニエンスストアに行けば、加工調味料だけでなく、既に調理された料理も所狭しと陳列されており、美味しいおかずの一品が簡単に手に入る便利な世の中になっています。
しかし、便利になったものに頼りすぎて、大切なものが見えなくなってしまっている、忘れられてしまいそうであると気付かされます。
子は親が準備した食事で育ちます。食材の好き嫌いは別にして、親が準備した料理が天然素材からとって味付けされた料理なのか、加工調味料にて味付けされた料理なのかを判断することは子供にはできません。
親が準備した料理の味が、子供にとっては親の味です、受け継がれてきた味です。その味は各々の家庭でも違っています。
その家庭の味が加工調味料であるのは寂しいことだと思いますし、ましてや味覚がおかしくなって育っているなんて子供は思うはずもなく、親としてもそのように育てたくないはずです。
現代社会は、両親ともに働かないと生活できにくいところがあり、食事の用意に時間が取れず、加工調味料を利用した料理やお店で作られた一品料理や弁当などを手料理代わりに食しています。

仕方がないところではありますが、武俊さんが危惧されていることを少しでも認識しているのとしていないのでは、雲泥の差があるのではないかと感じました。
私も人の親として、この話を家族に伝え、加工調味料だけに頼らず、できる限り天然素材から摂った味を子供たちが食するように、親が意識しておこうと話し合いました。

今回、私は初めて事業所捜査隊を担当させていただき、武俊さんの会社のことをお聞きしたのですが、自社の商品や業界の取り巻く状況をしっかり把握し、それを分析した上で、自社の方向性を見据えて行動、経営されている姿は、われわれ他社であっても見習わなくてはいけない姿勢だと感じました。
時代の流れに対応しないと、いくら伝統の味、調味料があるとはいえ、時代の流れに逆らってしまうと会社を潰してしまう恐れがあるため、時代の流れに乗りながら、残していくものは残していき、時代に合った商品を消費者に提供していく経営をされています。取り扱っている商品やサービスが違えども他の会社についてもとても参考になる貴重なお話でした。

 

事業所情報:森山醸造食品(有)

(店舗・事務所)

住所 福岡県柳川市沖端町52

電話 0944-72-2716

(工房・工場)

住所 福岡県柳川市稲荷町26

 


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